「うちの子、すぐ泣いてしまって…」
「感情のコントロールが苦手で心配」
そんな声を、教育現場や家庭でよく耳にします。
でも実は、“感情を表す”ことは悪いことではありません。
むしろ、「自分の気持ちを正しく理解して、言葉で伝える力」こそ、
これからの時代に必要な「生きる力」となります。
この力を心理学では エモーショナル・リテラシー(Emotional Literacy)と呼びます。
近年では、学力だけでなく「心の教育」の一環としても注目され、
世界中の学校で教育プログラム(SEL=社会情動的学習)が進められています。
本記事では、
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エモーショナル・リテラシーとは何か
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なぜ今それが必要なのか
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家庭でどう育てればよいのか
を解説していきます。
エモーショナル・リテラシーとは?
エモーショナル・リテラシーとは、
「自分や他人の感情を正確に読み取り、適切に表現・調整する力」のこと。
もう少し具体的に言うと、
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自分が今、どんな気持ちかを理解できる(自己認識)
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その気持ちを適切に表現できる(自己表現)
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相手の気持ちを察して行動できる(共感・対人理解)
という3つの力から成り立っています。
心理学者ダニエル・ゴールマンは、この力を「EQ(感情知能)」の中核としています。
彼の研究によれば、学力よりもEQが高い子どものほうが、
社会的成功・幸福感・人間関係満足度が高いことがわかっています。
つまり、感情をうまく扱える力は、
「勉強のための力」ではなく「生きていくための力」 となります。
なぜ今、感情教育が必要なのか
現代の子どもたちは、以前よりも「感情を表現する機会」が少なくなっています。
その背景には、
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スマホ・ゲーム中心のコミュニケーション
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コロナ禍でのマスク生活やオンライン授業での“表情の読みにくさ”
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「我慢しなさい」「いい子でいなさい」という風潮
などがあります。
感情を抑え込む生活が続くと、
自分の気持ちがわからなくなったり、
ストレスを言葉で表せず「行動」で表すようになります。
たとえば、
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イライラして物にあたる
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無気力になる
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すぐ泣く、怒る
これは「感情が未消化」な状態。
つまり、“心の交通整理”がまだうまくできていないのです。
エモーショナル・リテラシーを育てることは、
子どもが「自分の心を理解し、整える」力を育てることにつながります。
家庭でできる!エモーショナル・リテラシーの育て方5選
① 感情に名前をつける
子どもが泣いたり怒ったりしたとき、
「泣かないの」「怒らないの」と言ってしまいがちです。
でもまずは、「悲しいんだね」「悔しかったね」と 感情に名前をつける ことが大切。
自分の気持ちに“ラベル”を貼ることで、
子どもは「今の自分」を客観的に見つめる力を育てます。
② 絵本やカードで感情を見える化する
おすすめは、感情カードや感情をテーマにした絵本。
子どもは視覚的な情報から学ぶのが得意なので、
「この顔、どんな気持ちかな?」と一緒に話すだけでも効果的です。
③ 親自身が“感情を言葉で表す”モデルになる
「今日は仕事でちょっと疲れたな」
「嬉しいニュースを聞いて元気出た!」
こんなふうに、親が自分の感情を言葉で伝えることで、
「感情を言葉にしていいんだ」と学びます。
子どもは親の行動を“鏡のように”映す存在です。
親が感情を素直に認める姿は、最高の教材になります。
④ 「どうしたい?」と気持ちの主語を子どもに戻す
子どもが怒っているとき、
「何があったの?」よりも「どうしたい?」と聞いてみましょう。
感情を整理したうえで「自分で選ぶ」体験が、
自己効力感(自分にはできるという感覚)を育てます。
⑤ ポジティブ感情を大切にする
「嬉しい」「楽しい」「気持ちいい」など、
プラスの感情も丁寧に扱うことが大切です。
「今日のどんなことが楽しかった?」
「うれしい気持ちをどうやって伝えようか?」
ポジティブ感情を言葉にすることで、
脳は「幸せ」を再認識し、幸福度が上がります。
学校や社会でも注目される「感情の学び」
世界では今、「SEL(社会情動的学習)」が教育の柱となっています。
アメリカでは多くの学校で、感情を理解し共感する授業が導入されています。
日本でも文部科学省が「自己理解」「人間関係形成能力」を育む教育を推進中。
感情教育は、これからの学力観の中でも重要な位置づけになっています。
親が陥りやすい落とし穴
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「泣かないで」「怒らないで」と感情を否定してしまう
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「そんなことくらいで」と気持ちを軽視してしまう
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正論で片づけてしまう
これらの言葉は、意図せず“感情のシャットダウン”を招くことがあります。
感情を抑え込むのではなく、「受け止める」ことが出発点です。
今日からできる3ステップ
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共感する:「そう感じたんだね」
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気持ちを整理する:「どうしてそう思った?」
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行動につなげる:「じゃあ、次はどうしたい?」
この3ステップを繰り返すことで、
子どもは「感情を行動に変える力」を自然に身につけます。
まとめ:感情を理解する力が「生きる力」をつくる
感情はコントロールするものではなく、
理解し、味方につけるもの。
感情を言葉にできる子は、
他人の気持ちも理解しやすく、トラブルにも強くなります。
そして、家庭の中で「感情を受け止める文化」をつくることが子どもの安心につながります。
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